第二種電気工事士の試験の出題範囲には、「小勢力回路」が含まれます。この回路の定義や該当範囲が不明瞭だったため、電技解釈などを参照して調べてみました。
※おふざけタイトルですが真面目な記事です。
はじめに
第二種電気工事士はいわゆる「強電」を扱う分野の資格ですが、勉強を進めていくといきなり「小勢力回路」という不思議なワードが出てきます。この定義についてですが、「絶縁変圧器によって電圧を下げている」「最大使用電圧が60V以下である」などと一般の参考書等では説明されています。
これ以外の項目において、二種電工の参考書等で弱電回路について触れられることはほとんどないため、具体的に何が小勢力回路であり、または何が小勢力回路でないのか、不明瞭なまま学習することになりえます。
小勢力回路の一例としては、「リモコンリレー回路」「ベル・チャイム回路」といったものが挙げられることが多いですが、「小勢力回路っぽいけど違うもの」が例示されているのはあまり見たことがありません。
ここで、次のような疑問が出てきます。
- LANケーブルのような通信用の電子回路は小勢力回路か?
- リモコントランスの代わりにスイッチング式の安定化電源を使用したリモコンリレー回路は小勢力回路か?
- 親機にAC100Vを直接入力し、親機と子機の間を弱電回路で結ぶようなインターフォンの類における、親機と子機の間の回路は小勢力回路か?
- トランスを使用して電圧を下げるベル・チャイム回路で、トランスの2次側に整流回路を組み込み、直流電圧を出力するようにしているものは、小勢力回路か?
これらの疑問を調べるため、まずは「電気設備の技術基準の解釈(電技解釈)」を調べてみました。
電技解釈を読んでみる
電技解釈においては、第4節 第181条で小勢力回路の定義とその施設方法が示されています。以下がその定義です。
電磁開閉器の操作回路又は呼鈴若しくは警報ベル等に接続する電路であって、最大使用電圧が60V以下のもの(解釈第181条)
「~警報ベル等」の「等」がどこに掛かっているのか、どの程度の曖昧さを有しているかは分かりませんが、この条文を読むと「リレーの操作回路」「チャイム」「警報ベル」の類のものを、接続される負荷として想定していることが分かります。
また、絶縁変圧器で電圧が下げられていることも小勢力回路の要件にあるようですが、これについても本条文に示されています。
小勢力回路に電気を供給する電路には、次に適合する変圧器を施設すること。(イ)絶縁変圧器であること。(ロ)1次側の対地電圧は、300V以下であること。(ハ)省略 (解釈第181条の二)
とにかく、小勢力回路には絶縁変圧器を施設せよと書いていますが、絶縁変圧器以外を施設したらどうなるのか?絶縁変圧器の括りから外れるのはどこから?という疑問は微妙に払拭されません。スイッチング電源なんかを施設したらダメなんでしょうか。
この疑問についてですが、「電気設備の技術基準の解釈の解説(以下「電技解釈の解説」)」が経産省から発行されていたので、そちらを調べてみることにしました。
電技解釈の解説を読んでみる
この疑問に対する一つの解として、電技解釈の解説においては小勢力回路の範疇について次のように述べられているので抜粋します。
本条では最大使用電圧が60Vを超える電路と変圧器で結合された交流回路のみを対象とし、直流回路又は最大使用電圧が60V以下の発電機等から供給される小電流の回路について触れていない。これは、この程度の回路(信号灯回路、操作回路等のものに限ることに注意が必要である。)を弱電流回路と見なしたためである。(電技解釈の解説第181条)
この解説によると、信号灯回路や操作回路などを構成するために、簡単な絶縁変圧器を用いて60Vを超えないように電圧を落とした小電流の交流回路を小勢力回路とみなす、という風に読み取れます。直流回路や、絶縁変圧器以外の電源装置から供給される小電流の回路については触れておらず、いわゆる「スコープ外」であると読み取れます。
また、この解説を読み進めるうえで、小勢力回路は弱電か強電か?という問いについても明瞭に示されていたので抜粋します。
本条で規定している小勢力回路は、あくまで強電流回路として扱っており、第1条の解説で述べているような弱電流回路からは除かれる。しかし、小勢力回路の電線と他の強電流回路の電線との関係においては、小勢力回路は弱電流並みに扱う必要があるので、この解釈で「弱電流電線」というときは、小勢力回路の電線も含まれる。(電技解釈の解説第181条)
小勢力回路とは、次の要件を備えたもののうち、弱電流回路以外のものである。
①最大使用電圧が60V以下
②電源用変圧器の1次側電路の対地電圧が300V以下
③最大使用電流及び短絡電流(その回路の電源側に施設された過電流遮断器の定格電流)が最大使用電圧に応じて、解説181.1表の値以下(電技解釈の解説第181条)
この解説により、小勢力回路は強電流回路である、言い換えれば弱電流回路は小勢力回路として扱われるものではない、ということがはっきりします。
読み解くうえで、弱電と強電の違いについても理解を迫られることが分かりました。そういえば、理解していませんでした。弱電の定義について知っておいたほうがよさそうです。
弱電流回路とは
弱電流回路とみなすものは何か、についてですが、電技解釈の解説にやはり載っていたので、以下の通り抜粋します。
概念的にいえば、電信・電話等の用に使用される低電圧微小電流のものが弱電流電気であり、それ以外のものが強電流電気である。電信・電話等の電気回路以外では、次のようなものを弱電流電気回路と考える。
①インターホン、拡声器等の音声の伝送回路
②高周波又はパルスによる信号の伝送回路
③最大使用電圧が10V以下で使用電流が5Aを超えない電気回路
④短絡電流が1mA程度以下の電気回路
⑤電圧の最大値が60V以下の直流電気回路で第181条に規定する小勢力回路に準じたもの
⑥電力保安通信線であって、最大使用電圧が110V以下で短絡電流が100mA以下の電気回路(電技解釈の解説第1条 電線(省令第1条第6号))
弱電と強電の区別がかなり難しいんだろうなあという気持ちになりながら読んでいました。これは電技解釈の解説であって厳密な定義が示されているものではないですが、ここに挙げられる回路は弱電流回路であることから、解釈第181条で定義される小勢力回路には含まれないことになります。
解釈がハッキリしない部分をまとめる
冒頭で「リモコントランスの代わりにスイッチング式の交流安定化電源を使用したリモコンリレー回路は小勢力回路か?」といった疑問を示しましたが、絶縁変圧器以外の電源を使用した場合、電技解釈においてはどういう扱いになるのでしょうか?
これについては次の2通りの解釈ができます。
- 小勢力回路ではない
当該回路は絶縁変圧器以外の電源から電気の供給を受けているから、「60V以上300V以下の電路と絶縁変圧器で結合された60V以下の回路」という小勢力回路の要件に合致しない。よって小勢力回路ではない - 小勢力回路である
当該回路が小勢力回路に準じる交流回路であること、解釈第1条の解説における弱電流回路の範疇からは外れるものであること、また解釈第181条において電源用変圧器に絶縁変圧器の使用を求めている背景を考慮すると、電源装置にスイッチング電源等を用いたものであっても小勢力回路に含めるべきとも解釈できる。よって、当該回路は小勢力回路である
個人の解釈にはなりますが、当該回路の施設・利用目的が解釈第181条で定める小勢力回路に準ずるものであって、解釈第181条で定めるものと同等以上の安全性を有するものであり、なおかつ弱電流回路に当てはまらないものであれば、小勢力回路として扱われる(べき)なのかなあと感じました。
ただし法規の解釈について、法学を専攻しない者が意見を述べる事にあまり意味はありません。この点を踏まえ、電技解釈に関する議論はこの辺に留めておきたいと思います。
「はじめに」で提起した疑問の答え
冒頭で以下のような疑問を書きましたが、答え合わせをします。
- LANケーブルのような通信用の電子回路は小勢力回路か?
→誤。弱電流回路であることから、小勢力回路にはあたらない。 - 親機にAC100Vを直接入力し、親機と子機の間を弱電回路で結ぶようなインターフォンの類における、親機と子機の間の回路は小勢力回路か?
→誤。インターホン、拡声器等の音声の伝送回路は弱電流回路であるため、小勢力回路にはあたらない。 - トランスを使用して電圧を下げるベル・チャイム回路で、トランスの2次側に整流回路を組み込み、直流電圧を出力するようにしているものは、小勢力回路か?
→誤。電圧の最大値が60V以下の直流電気回路で第181条に規定する小勢力回路に準じたものは、弱電流回路であると考えられる。よって小勢力回路にはあたらない。
疑問がスッキリしました。いかがでしたか?
所感
第二種電気工事士の試験範囲にも含まれる小勢力回路ですが、定義について調べると結構沼にハマってしまいました。重箱の隅は不用意に突かない方がよさそうです。