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エアコンはどのように除湿しているのか?【空調談義シリーズ#1】

今回から、空調技術を愛してやまない空調マニアの筆者が、空調について談義する記事を連載していきます。

初回のテーマは「除湿」について。エアコンには、空間を冷暖房する機能のほかに、空間の湿度を下げる機能があるのが普通です。除湿に関する記事や解説はWeb上に多くみられますが、この記事では「わかりやすさの追求」とは一線を画し、「一歩踏み込んだ考察」をモットーとして、除湿について考えていきます。

エアコンが湿度を下げる原理「冷却除湿」とは

エアコンは、加熱・または冷却された熱交換器に室内の風を通すことで冷暖房を行う機械です。暖房の場合は加湿ができませんが、冷房の場合は単純な冷却だけではなく、除湿を行うことも可能です。

湿り空気線図上でとらえる除湿

空気を冷やすことによって除湿が行えることは、湿り空気線図を用いて説明できます。

図1:湿り空気線図による除湿の説明

図1は、25℃50%RH(A点)の空気をおよそ9℃(B点)まで冷却したときの説明です。青線(約14℃)までの冷却では、除湿を伴わない冷却が起きています。湿り空気線図において、冷却は左側への水平移動として表されます。
青線で示した過程で、この湿り空気は相対湿度100%に達しています。言い換えると、露点まで冷却した状態です。空気がこれ以上水蒸気を抱えきれない状態ですから、さらに冷却を続けると空気は結露します。

青線からさらに冷却を続けた過程を紫線で示しました。この過程を除湿冷却と呼び、空気から水分が奪われる過程です。相対湿度100%からあふれた水蒸気は空調機内部で結露し、ドレン水として回収されます。したがって、吹き出す空気はB点にプロットされることになります。緑線で示した部分において、絶対湿度の低下が起きていることになります。

このような過程を経て冷却した空気は室内へと吹き出すことになりますが、熱の流入による加熱や、室内の空気との混和などを受けて温度や湿度が変化することになります。

さて、湿り空気線図をみることで、「空調機は熱だけを奪った」のにもかかわらず、湿り空気においては温度だけではなく水蒸気量が変化していることが読み取れます。空調分野においては、水蒸気量の変化も熱の移動としてとらえます。湿り空気の温度変化に要する熱を顕熱、水蒸気量の増減に要する熱を潜熱ととらえ、さらに双方の合計を全熱(エンタルピ)と呼んでいます。湿り空気線図は1kgの乾き空気を基準とした比率としてプロットしてありますから、エンタルピについても1kgの乾き空気を基準とした「比エンタルピ」となっていることに注意が必要です。

暖房の場合についても触れておくと、青線とは反対に、右水平方向へ空気線図上を点が移動することになります*1。加湿を伴わない加熱が起きていることになり、絶対湿度は変わりません。ただし温度上昇に伴って飽和水蒸気量が上昇することから、相対湿度が低下することになります。

相対湿度を下げるために

私たち人間にとっての「快」「不快」を大きく左右するのは、温度と相対湿度のバランスです。人は発汗によって体温を下げる機能をもっていますが、相対湿度が上がれば汗が蒸発しにくくなり、蒸し暑さを感じるようになります。皮膚がべたつくことによっても不快に感じられます。また、いくら相対湿度が適当な値であっても、温度が下がりすぎれば肌寒く感じられ、やはり不快に感じられます。

さて、私たちの生活に根差した湿度の基準は「相対湿度」なわけですから、エアコンを用いた除湿においても、相対湿度を下げる運転が望まれます。ここでも、空気線図上で少し考えてみることにしましょう。

図2:湿り空気線図で示す除湿とレヒート

図2では、A点に現在の室内空気(28℃65%RH)を、B点に目標とする室内空気(25℃50%RH)をプロットしました。A点とB点を結ぶ補助線をグレーで描きました。このグレーの線上に調和空気が来れば、室内空気と調和空気の混和によって室内空気をB点付近にコントロールできるわけです。

使用する空調機は9℃まで冷却できるものと仮定して、空調機から吹き出される空気をC点にプロットしました。A点からC点まで結ぶ矢印の色づかいは図1と同様です。

ここまで条件が定まると、C点とグレーの補助線を結ぶ水平線、および交点が一意に定まります。図2においてそれぞれ、赤い右矢印でプロットした線、D点が当てはまります。

湿り空気線図上において、右へ水平に移動する動きは「加熱」にあたるわけですから、C点まで冷やした空気をD点まで再び加熱する(レヒートする)ことによってはじめて、A点では65%RHだった湿度を、B点の50%RHまで下げられることがわかります。

このレヒートの過程を空調機内部で行えるものもありますが、ビル用の大型空調機や、家庭用でも上位シリーズのルームエアコンなどに限られています。

普及モデルのルームエアコンや業務用のパッケージエアコン、ビルマルチエアコン、ファンコイルユニットといったほとんどのエアコンには、冷却と加熱を同時に行う機能はついていません。その代わりに、外気の暑さや日射によって建物内部に貫流する熱を利用して、成り行きで空気が熱されることにより、レヒートと同等の役割を果たしているのです。

寒すぎると除湿ができない?

ほとんどのエアコンについている除湿機能は、装置内では冷却だけを行って絶対湿度を下げ、吹き出した空気が建物内部に伝わる熱によって熱せられることを利用し、相対湿度を下げています。

エアコンによる除湿が難しい状況は概ね以下のように場合分けできます。

  1. 室外からの熱の流入が小さい、梅雨や夜間の除湿
  2. 外気の流入が多すぎる場合の除湿
  3. お部屋の熱負荷に対してエアコンの能力が過大である場合の除湿

1の状況は、建物に伝わる熱がとても少ない状況です。絶対湿度を下げた「低温・高湿」の吹き出し空気を、建物に伝わる熱によって十分に熱することができません。室温が設定温度を下回りやすく、エアコンはサーモオフしやすい状況です。
項目名で示したような「寒すぎると除湿できない」状況はこれに当てはまります。

2の状況は、顕熱負荷(熱の流入)に対して潜熱負荷(エアコンが処理すべき水蒸気量)の割合が高い状態です。換気量が多すぎる場合、外が蒸し蒸ししている場合、人が多い室内や、調理などによって水蒸気が盛んに発生している場合などが当てはまります。エアコンが運転しているにもかかわらず、湿度がじわじわと上昇する状況が多いです。

3の状況は、冷やし始めは順調に温度・湿度ともに下がっていったのに、設定温度に到達してから湿度が下がらなくなるという症状が目立ちます。エアコンの能力が過大であると、サーモオフに入りやすく、この間に除湿ができなくなります。蒸し暑いからといって風量を上げすぎると、余計に湿度が上がります。

冷房と除湿の違いについて

エアコンが除湿を行う原理について前項で述べました。空気を露点以下まで冷やすことで、空気を結露させ、さらに結露水を室外に排水することで除湿を行っています。

勘の良い方ならお気づきでしょうが、除湿の原理は冷房とまったく変わりありません。このことをご存知の方の中には、冷房と除湿(ドライ)の違いが分からない、どう使い分ければよいか分からない、と悩まれる方もいるでしょう。

この項では、搭載機種が幅広い「再熱を使わない除湿」について説明します。

除湿は運転制御を変えているだけ?

除湿運転では、冷房と比べて運転制御が異なります。主に次のような特徴があります。

  1. 圧縮機の回転数を上げ、風量を低減(空気をより冷やして除湿効果UP)
  2. 運転と停止を繰り返して温度をコントロール(冷えすぎの防止)
  3. 圧縮機の停止中に送風を抑える(機内の湿気を部屋に戻さないため)

1については、冷却除湿の原理をもとに、圧縮機の回転数を上げて室内に吹き出す空気の温度を下げることで、より多くの水分を空気から奪うように制御しています。さらに、風量を抑えることで、吹き出し温度を低く保つうえ、処理する顕熱量を抑えます。潜熱能力を上げた運転、といえます。
空気線図上でみると、図1で示した青色の矢印は顕熱だけを奪う領域ですが、紫色の矢印は顕熱に加えて潜熱を奪う領域です。青色の領域に比べて紫色の領域が伸びれば伸びるほど、潜熱能力は大であるといえます。

2については、除湿運転においては圧縮機の回転数制御範囲が狭まるため、発停を繰り返して冷えすぎを防いでいます。
冷房運転時は、お部屋の熱負荷に合わせて幅広く圧縮機の回転数を変化させ、熱負荷に追従した冷房運転を行っています。発停が少ない運転は省エネルギーにもつながります。ですが、除湿運転では吹き出し温度を低く保つ必要があり、圧縮機の回転数をあまり落としすぎることはできません。自ずと、冷えすぎたら圧縮機を止め、再びお部屋が暖まったら圧縮機を運転する、という運転サイクルが成り立ちます。

3については、「湿度戻り」を抑制する効果があります。
エアコンは、圧縮機の制御範囲を超えて室温が低下したときに、圧縮機を停止して室温を維持する「サーモオフ」とよばれる制御を行います。冷房運転においては、サーモオフ時も送風を継続します。これでは、せっかくお部屋から取り除けたエアコン内部の水分をお部屋に再び戻してしまいます。
除湿運転時は、サーモオフ時に室内機の風量を微風にしたり、あるいは完全に送風を止めてしまうことで、湿度戻りを防いでいるのです。

除湿が有効な状況

除湿(ドライ)は、以下の2点を満たす場合に非常に有効な運転モードです。

  • 室温がそれほど高すぎない
  • 室温に比べて湿度が下がりにくい

暑い室内を一気に冷やすには、運転制御範囲の広い冷房が適しています。風量も冷房のほうが大きいことから、冷えた空気を室内に行き渡らせることも冷房のほうが得意です。

この条件から外れる場合は、冷房では不快になる可能性が出てきます。特に室温に比べて湿度が高い場合、冷房のままでは湿度がなかなか下がらない場合があります。その場合は除湿運転をおすすめします。

ただし、除湿運転は吹き出し温度が下がることから、風が直接当たる場合は肌寒く感じられることがあります。

むすび

日本の夏は高温多湿であり、「蒸し暑い」と形容されます。蒸し暑い夏を乗り切るためにはエアコンは欠かせませんが、快適な空気環境を実現するのは難しいのが実情です。

エアコンを付けても蒸し暑い、風量をどんなに上げても暑い…。
エアコンを付けたら涼しくなったけど、ジメジメして肌がべとつく…。

多くの方は、室温だけを意識してエアコンを使うと思いますが、蒸し暑さや肌寒さを抑えた快適な空調の鍵を握るのが「湿度」。

エアコンひとつだけで、温度と湿度の両方を快適に保つのは難しいですが、湿度を意識していただき、一人でも多くの方に少しでも快適な夏を過ごしてほしいと思います。

出典

湿り空気線図はウィキメディアコモンズよりパブリックドメインのものを使用しています。以下に出典を示します。

File:PsychrometricChart-SeaLevel-SI-jpn.jpg - Wikimedia Commons

*1:加湿機能を搭載したエアコンや空調機の場合は除きます