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Xperia 1 II (SIMフリー版) で楽天5Gが使えない理由を考える

ソニーの5G対応スマートフォンXperia 1 II」の国内向けSIMフリー版で、楽天モバイルの5G NSAサービスが利用できない問題について考察します。

Xperia 1 II ってどんなスマホ

Xperia 1 II」は、2020年に発売されたソニー初の5G対応スマホです。切り欠きのない21:9のシネマワイドディスプレイに、Photo ProやCinema Proといった高機能な撮影アプリを搭載、さらには3.5mmオーディオジャックを欠かさず搭載するなど、ソニーらしさが存分に盛り込まれた一台です。

日本ではdocomoauからキャリアモデルとして発売される一方で、ソニーストアからも、デュアルSIMに対応したSIMフリーモデルの「XQ-AT42」が発売されました。日本メーカー製フラッグシップスマホSIMフリーモデルが国内で正規流通するのはただでさえ珍しいですが、デュアルSIMに対応しているスマホとなるとさらに希少な存在です。XQ-AT42は、キャリアモデルと比べてRAMやストレージの容量が増加しており、性能面でも大幅にブラッシュアップされています。

私は2021年4月頃にXQ-AT42を購入し、docomo楽天モバイルのSIMを挿して利用しています。

なぜか楽天モバイルの5Gが使えない(らしい)

そんなXQ-AT42ですが、どうやら楽天モバイルの5Gが使えないらしいのです。とはいっても、メーカーおよび楽天モバイル側からは一切情報が出ていません。なので信憑性には疑問がありますが、あるソニー特約店のブログ記事にて「楽天モバイルの5Gには対応しない」といった旨の記述を見つけることができます。

kunkoku.com「通信方式の違いにより非対応」という、ふわっとした表現ですが、通信方式のどこがどう違うというのでしょうか。

ちなみに、楽天モバイル側では相互接続性の確認が一切取れていないようで、5Gだけではなく4Gの動作も含め、一切の情報が掲載されていません。メーカーサイトの仕様を見ても、具体的にどのキャリアでどの通信が利用できるかという情報については詳しく掲載されておらず、特に5Gについては「 通信事業者によっては、端末が対応のバンドであっても通信できない場合があります」という、若干歯切れの悪い文言が掲載されるに留まっています。

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Xperia 1 II (SIMフリー版) は楽天モバイルへの対応状況を確認できず

5G NSAのしくみについておさらい

現在各キャリアで運用されている個人向け5Gサービスは、NSA (Non Stand-Alone) と呼ばれるネットワーク構成が採用されています。接続制御用のアンカーバンドとしてLTEを使用しつつ、より高速なデータ通信サービスを提供するために5G NRを併用する、というものです。LTEとNRを同時に利用する仕組みを「EN-DC」と呼びます。NSA構成では、ユーザーデータをNR側で、制御情報をLTE側で流すという、いわゆるC/U分離を行えますが、日本の大手キャリアではLTEとNRの両方にユーザーデータを流すことで、下り最大3Gbpsを超える理論値速度を実現しているようです。現状のNSA構成の5Gを総括すると、4Gにおけるキャリアアグリゲーションを長期的に進化させつつ、SA構成の5Gにシームレスに橋渡しをするものと言ってもよいかもしれません。

5G NSAにおいては、5G NRの基地局であるgNBと、LTE基地局であるeNBが協調して動作します。このためにLTEの仕様拡張が行われており、eLTE (enhanced LTE) と呼ばれています。eLTEは既存のLTEとの後方互換性を有します。

NSA構成では、報知情報とよばれる、基地局の存在を知らせたり各種運用パラメーターを端末に通知する情報を、gNBでは流さず、その代わりにeNBから流します。この報知情報に、gNBの存在を知らせる情報も含まれています。

以下の記事で、5G NSAの仕組みについて詳しく触れられています。

www.itmedia.co.jp

docomo (4G契約) と楽天、それぞれのeLTEの掴み方を比較

端末が現在掴んでいるバンドや周波数帯域幅、電波強度などを一括表示できるアプリとして、NetMonsterというアプリがあります。このアプリでは、5G NSA基地局への接続状況や、接続失敗した場合の状況などを簡易的に表示することもできます。

docomoの4G契約のSIMを入れ、端末の5G機能をオンにし、5G通信エリア内をうろうろすると、NetMonster上でこのような表示を見ることができます。

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上部に、4G LTEと5G NSA Disconnectedと表示されています。少なくとも、gNBの存在を通知する報知情報を受信しているはずだということが分かります。また、下部のペインにはより詳細な情報が表示されており、キャリアから5Gネットワークへの接続を拒否されたことが分かります。私が所持しているdocomoのSIMはすべて4G契約のみで5Gが利用できないため、正しい挙動を示していると思います。

また、楽天モバイルのSIMでau5Gエリアのパートナー回線に接続した場合も、上記のdocomoの場合と全く同じ挙動を示します。auのeLTEも問題なく受信できており、なおかつ5Gの契約情報がないため5Gネットワークへの接続を拒否されているようです。

問題は、楽天回線エリアでの挙動です。5Gに対応したエリアの一つ、博多駅のすぐそばにある音羽公園で5Gに接続できないか試みたのですが、NetMonsterの画面上で見ても、gNBへの接続を試みた形跡が確認できませんでした。エリアマップ上でもSub-6とミリ波の両方に対応しており、Twitter上でも5Gへの接続に成功した報告が上がっている場所なので、問題なくeLTEもNRも電波が吹いているはずですが...。

eLTEの掴み方からみた考察

楽天回線の5Gに接続できない理由はいくつか考えられますが、「5G NRを吹いているバンドが端末側で対応していない」とか、「基地局側で対応しているEN-DC組合せが端末側で対応していない」といった理由ではないように思われます。eLTEによる報知情報をうまく受信できていない、あるいは受信したものの端末側が何らかの理由でeLTE基地局に対して5G NSAでの接続要求を投げていない、のどちらかが濃厚だと考えています。前者は考えにくく、おそらく後者じゃないかなと見ています。

また、同じ楽天モバイルのSIMであっても、au5Gエリアでパートナー回線に接続した場合は、docomoの場合と同じように、5G NSAへの接続要求を投げて拒否されている、という所が興味深いポイントです。

結局、原因はなんなのか

楽天モバイルのSIMであっても、楽天回線の5Gエリアのとパートナー回線の5Gエリアで挙動が異なることから、コアネットワーク側の問題であるという仮説を立てることができます。

LTEにおいて端末からの接続要求を処理するのがMMEですが、楽天モバイル側のPRにもある通り、楽天モバイルauのMMEはS10インターフェースで相互接続されています。パートナー回線エリアでは、まずauのMMEと楽天モバイルユーザーの端末が接続され、楽天モバイル側のMMEと協調動作する?と思うのですが、楽天回線エリアではauのMMEは経由しないはずです。このことから、本端末は楽天モバイルのMMEに接続されても、5G NSAでの接続要求ができないなどの仮説を立てることができます。corp.mobile.rakuten.co.jp

また、楽天モバイル基地局を含めた完全仮想化ネットワークを構築しているようですが、何らかの問題で、楽天モバイルのeLTE基地局から通知される報知情報をうまく処理ず、gNBの存在を本端末が認識できない、という可能性は拭えません。

そのほかにも原因について仮説を立てることができます。それは、本端末が特定のキャリアに対してのみ5G NSAへの接続要求を投げる仕様になっているのではないか?というものです。特定のキャリアとは、docomoauSoftBankの3社のMNOおよびそれらを利用するMVNOです。

この端末ですが、5Gのn77、n78、n79の3つのバンドについて、日本国内のみで利用できる(=国外では一切利用できないという意味なのか?)という仕様になっています。これらのバンドを利用している国は日本以外にもあると思いますが、それにもかかわらず、国内のみで利用できるよう制限を掛けているみたいです。実はその制限に引っかかって、楽天モバイルの5Gを利用できないのでは?と仮説を立ててもよいはずです。たとえば報知情報でgNBの存在を受け取った際に、MCCとMNCを見て5G NSAネットワークへの接続要求を投げるかどうか判断していれば、今回のような症状が起きるのは不思議ではありません。いささか乱暴な仮説であり、根拠に欠けますが......。

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XQ-AT42の仕様。5Gは国内のみ対応としている

いくつか本記事で仮説を立ててみましたが、端末と基地局との間で実際にどのようなパケットをやり取りしているのか解析できていない以上、これ以上真相に近づくことは難しいです (私個人の知識不足も大きいです) 。詳しい方がいればコメントを頂けると幸いです。

所感

SIMフリースマートフォンは、キャリアモデルと異なり、モバイル通信に関してキャリアもメーカーもあまり積極的にサポートしてくれない点が欠点であるということが分かりました。キャリアモデルでは、キャリア側の通信提供仕様の変化に追従してソフトウェアアップデートが提供されることがあり、発売からしばらくの間はキャリアの最新の通信仕様に合わせて使用することができたりしますが、SIMフリーモデルではそのようなことはあまり望めなさそうです。やはり、通信速度や安定性にこだわるならば、手厚いサポートが受けられるキャリアモデルを利用することには大きなメリットがあると言えそうです。